ana-chronistic ana


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2004年5月25日 話の枝葉

ana-chronistic ana
(ラッカ,「灰羽連盟」,Zaurus SL-C750 + CloverPaint 0.6

灰羽連盟というお話は枝葉を落としてしまうとラッカという女の子の冒険譚だった.だけど,このようなお話に対して枝葉を落として話していいはずがない.だから,好きだという気持ちを残したいときにこのようなお話は困る.困って枝葉を落としてしまうとテーマがどうだ構成がどうだというところから的外れの寸評になりがちである.全体を眺めて雰囲気がどうだこうだいうのも賛辞としてありきたりで足りないように思える.葉の一枚一枚を説明するのも粋でない.だからせめて,このようなお話がどのようなお話なのかを他のお話の助けを借りることで枝葉を繁らせながら語り直したい.

まずは素朴にラッカが好きだというところから始めたい.神月摩由璃だってフロド可愛い☆から始めたではないか(今にしてみると私の姉の言う「ボロミア可愛い」に近いものを感じるが,当時うぶだった私はそんなこと思ってもみなかった).彼女はお話の中で変わるということが無くて,彼女は彼女として問題を抱えて彼女のままに解決しているように見える.発見はそこに沢山あって,世の中の秘密(話師の操る手話)を見つけたり,レキの異様な部屋を見つけたりする.それは判らなかったことが判るようになる瞬間のことで,一方で変化というと時が過ぎて後から振り返ったときにようやく気付く類のものであると思う.例えばこのときラッカにとって成長があったかどうかということは何年か経たないとよく判らないのだけど,それは発見に満ちた少女時代だった,ということは今でも言えるんじゃないかと思う.それで,そんな風に彼女が瑞々しい毎日を掴み取ってゆく姿を,僕は愛しているのだと思う.

ともかく,彼女の暮らしにはいろんなことがあったのだ.

いろいろあったと言えば,以前にも取り上げたが高楼方子の「十一月の扉」というお話がある.このお話では爽子という女の子の発見的な日々をシンクロ(ニシティ)という言葉を繰り返し用いて強調している.自分と誰かとの間に結ばれた偶然の縁を感じられる瞬間,例えば,僕が日記に書いた内容が自分の好きな誰かがその日に書いた文章と同じものであると知ったときに感じられるような奇縁は,なんて素晴らしい発見だろうかと思う.ただあまりにシンクロ,シンクロと言うのでこそばゆくなってくるのだが,そこで出てくる彼女の親友リツ子の言葉がいい.お話の最後に爽子は彼女の日々をリツ子に話すことになる.それに対するリツ子の反応が「いろんなことがあったのねえ! 爽子ちゃん!」なのである.いろんなことがあった話に対して,いろんなことがあったのねえ,と答えるのは難しい.いろいろあったことをぞんざいに取りまとめてしまうような言い方だと,ちゃんと聞いてよ,お母さん!と子供みたいな文句を言いたくなる.しかし,リツ子の爽子に対する誠実な態度をそれまでの話で感じられればこそ,リツ子の言葉はシンクロの連発でふわふわした気持ちをすっと落ち着かせてくれる.うん,いろんなことがあったのだ.

ラッカという女の子がいて,いろんな冒険をしました.彼女にはほんとにいろんなことがあったのだ,で締めくくることの出来る感想を書けたら本望であると思う.そのときそこには彼ら彼女らに対する誠実さがあるはずだからだ.


ところで,CLANNADはまだ封を開けてオフィシャルガイドブックを読んだだけである.しばらく忙しいため気が散って出来ない.このオフィシャルガイドブックの中に「Ana」という挿入歌がそのタイトルのみ記述されている.ana は,narrative 同様,僕の好きな言葉だ.かつて日記に,世界はmanaよりむしろanaで動いている,という馬鹿話を書いたことがあった.つまり,小話や逸話という意味を持つ言葉である.


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