「雨の日と世界の終わり」に寄せて

『夏休みが待ち遠しい』(山名沢湖,1997,講談社)より




 『貴方の「夏」は、どんな夏ですか?』



 僕は自分以外の人間がそんな問いかけをしてくるとは、
 まったく予想していませんでした。

 それはまた、静かに雨の降る午後のことでした。


● 


 『この雨は、私が降らせているの。
  私が、私の「夏」へ行くために。
  息詰まるこの水の森の向こうにある、
  あの白い「夏」へ。』

 ●


 僕と同じように白い夏を見る彼女。
 そこにあるものは、
 全てを灼き尽くして無に帰す『白』と、
 時を止める永遠のまどろみ。
 涙は本当に悲しくて、
 僕はただ頷いて、話を聞いてあげることしか出来ませんでした。

● 


 ひとしきり雨の降った後、
 彼女は夏街を発って、家路につきました。  


 校舎の屋上に寝転がると、見えるもの全ては空となります。
 こんな息苦しい日はいつも、
 僕はそうして蒼穹の一部となり、
 背中のコンクリの熱さから、世界の優しい干渉を感じるのです。

 でも今日は、彼女が紅い小さな傘をさしていたのを思いだして、
 まだそんなことの許される彼女のことを、
 ちょっぴり羨ましく思ったりもするのでした。
   

かなり遅くなってしまいましたが、講談社の「amie」という雑誌に連載中の、『夏休みが待ち遠しい』(山名沢湖)について。
どうして彼女たちは僕の秘密を知っているのでしょうか。
それは、夏が訪れる前の「水」のお話。
そう、秘密はひとりじめするものじゃなくて、
秘密を教えあうことがまた、二人の秘密になるんですね。
上のお話は、僕の拙い感想文です。


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