◆
「雨の日と夏の終わりに」
久しぶりの雨。
雨上がりの見晴らしは、とてもいいだろうと
これもまた久しぶりの屋上。
周囲を巡る山並の、一つ一つの木の影さえ見える、
そんな澄みきった空気と、冷たい風。
大文字山には虹がかかっていた。
前に虹を見たのはいつだっただろう。
10年前?
そんな昔ではなかったはずだけれど、
確言できる根拠は何にもない。
虹は山を越え、東の空の彼方に続き、
融けて琵琶湖へと還ってゆく。
僕はもう、遥か遠い昔のものとなった記憶を思い出して、
そしてようやく、僕の夏が終った。
「夏街通信」了
mail to 寿琅啓吾