『流星彩』
--りゅうせいさい--



 記憶のフィルムを目印に。

流星彩

(オリジナル画像はこちら)

 ランドセルを投げ捨てて、僕はいつもの席についた。
 鉄橋の上を、終電間際の列車が過ぎてく。
 上り、下り、上り、
 三本、行き交った後、彼がやってきた。
「あ・・・」
「筆箱がボロボロや。」
「あんた顔のほうが。また中学生と喧嘩した?」
 血も拭わんと、彼は土手に仰向けになった。
「俺の顔はむかつくんやって、つまらん奴らが。」
 こんな時の、月を射るような瞳が一番、透徹ってる。
「あいつらは、なんも知らへん。ドブ見て生きとる。」
「そやね。」
 星も知らへん。永遠の意味も知らへん。
 こんな夜、彼と会えることも知らへん。
「よぉ星が見えるよ。あ、キグナスがえろう動いてる。」
「そか。」
 瞼をひらいて、彼はデネブを捉えようとする。
 反対側の空に一つ、星が流れた。
 それは少し水色に揺れる。
「僕、引っ越しすねん。」


 夜行列車が過ぎてく。
 行先は、東京。
 どんなけ離れてても見る星空は同じ、なんて嘘。
 星が、もう一つ流れた。
「紅い流れ星、見んのもこれで最後かもな。」
「あかん、また血ぃでてるやん。めぇ悪うなで。」
「綺麗なもんが見れんよになんのやったら、悪うなってもええ。
 おまえみたいなん、他にはおらへん。」
 星、とそう彼は言ってた。
 それを見つけるために生きてた、
 銀河の中から自分だけの光を探しだす、そのために。
 だから今、幸せなんや、と言ってた。
「出会った奇跡より難しいことなんかないワ。
 いますぐ無理やけど、なか一緒にいられるテがあるて。」
「こんどは、それ見つけなあかんねんな。」
 小さなファインダーで僕らは探しつづける。
 そして、レンズの向こうに互いの瞳を見つけたとき、
 流れ星は色付で甦るだろう。


--なの氏に捧ぐ--

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短冊懸へ
寿琅啓吾 <soga@summer.nifty.jp>