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2007/10/26  22:46:08  sprite_20070704035647_166    in cosmo sphere Lv7
[アニメ]

ウインダリア(映画版)

マーリンがイズーに渡した短剣は,守り刀と思わせておいて武器本来の方法では使われない.刺客となったシャレムに対してはとっさの牽制で小物をばら撒くのに使われるだけ.僕はここで抜くと思っていたのでまずは肩透かしを喰らった.剣が抜かれるのはその後,パロの国から逃げ出すときに小船の綱を切る場面になってからである.

ここで綱を短剣で切る様子それだけが置かれていると,パロとの悪縁を故郷の妻の短剣で断ち切る,などと読めるので自分の下品さに嫌気の差すところだけど,直前に肩透かしが置かれてるので,その隙にすっと受け入れられる.象徴くさい表現を単独で放置しない段取りが上手いのではないかと思った.

下品ついでにもう一つ.恋人たちの男の側の血は女の側の武器によって流される.ジルはアーナスの銃で撃たれ,イズーはマーリンの短剣で指を切る.男だ女だと考え出すとまた嫌気が差してくるのでここは,イズーの体をどうにかしていいのはマーリンだけである,としておきたい.

イズーがパロの国へ旅立ってしまって悲痛な面持ちのマーリンは,いったん2階へ上がってからこみ上げてきて泣く.この1階から2階へ上がるあいだの忘我の時間が沁みた.

「浅茅が宿」を数段落読んだところで,これってウインダリアだよなぁ,と思って検索したら,そういう話がそこそこ出てきたので久しぶりに観た.上田秋成の雨月物語の翻案とも言えるし,実写映画のほうも確認したら,そちらから出てきた発想も交じっているように見えた.荷車を押す様子とか,男が旅立つときすでに世相はきな臭いとか,仕官とか,男が滞在先で浮気してるとかね.実写では最後の長回しがあっと驚く美しさで,はじめは誰もいない暗い廃屋だったものが,ぐるっと回ってもう一度カメラが同じ場所へ戻って来たときには灯りがついて,元のままの家に妻が佇んでいる.ここをアニメではどう撮ったのかが気になっていた.結果,絵としては普通であるが,イズーの仕草が良い.

僕は関西生まれの関西育ちなので,子供の頃「アニメだいすき!」という番組で何度もウインダリアを観た.当時,イズーはひどい男だということで僕と姉の意見は一致するところだったが,秋成の勝四郎や溝口の源十郎と比べれば,浅茅が宿に帰ってきたときのイズーの負い目を感じた様子は好感が持てる.妻との再会において勝四郎と源十郎は十年一日の勝手さを見せる一方,イズーはマーリンの顔を直視できないでいる.というのは,イズーは妻と再会するよりも前に大いに後悔してるからで, 惑いの森の幻に対して動じなかった彼が,水没したイサの街を目の当たりにした後では死者の霊である赤い鳥の群れに怯えている.マーリンと引き合わせるにあたってすでに反省した状態の彼にしているところは,マーリンに対して優しい.