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2004年7月11日 天竜転変

天竜転変
(四葉,SisterPrincess,Zaurus SL-C750 + CloverPaint 0.6-6)

あれから千年が経ちました.




2004年7月7日 四葉と七夕の話

いまオランダに居る僕と話をするには,僕の携帯のいつもの番号にかけるだけでいい.今回の旅ではこの携帯電話の時計を使っていて,時刻を日本よりも7時間前に合わせてある.だからあなたが朝かけた電話は深夜の僕に繋がってしまう.そのうち携帯には話し相手の時刻も表示されるようになるんじゃないだろうか.その数字こそがどうしたって縮まることのない距離だ.これからするお話は携帯電話がまだない時代のお話であるが,だからきっと事情は今と変わらない.

オランダにもやはり四葉という名前の女の子が居て,遠い日本に住む兄と自由に会うことが出来なかった. 四葉がこの兄と会ったのは一度きりで,そのとき兄の教えてくれた七夕の伝説が四葉の大切な思い出となっていた.7月7日の夜に幼い二人は出会った.お互いが兄妹であることを知った.年に一度なんかじゃなくて織女さまより会えるよねと尋ねた妹に,牽牛さまよりたくさん会いに来ると兄は応えた.小さな妹も兄もまだ二人の距離を知らなくて,素朴に約束を交わしてしまった.四葉は七夕のことを学んで毎年星に願いを込めた.しかし,幼い日の約束は守られることがないままに時が過ぎた.

四葉は字を書けるようになるとすぐに兄へエアメールを出した.返事はなかった.同じことを何度か繰り返した後で,男の子はあまり手紙を書かないものだと教えてもらった.それからはもう手紙を書かなくなった.中学へ上がるころには,四葉はあの日の出会いのことを自分しか知らないお話の中の出来事のように特別に思い始めていた.世界地図を読めるようになった時,四葉はアムステルダムと東京の間に鳥の翼を描いた.鳥の列は弧を描いて二つの街に橋を架けた.後でメルカトル図法のことを習った時,航空路線が弧を描くわけを四葉は誰よりも深く理解した.引き裂かれた世界を繋ぐ道はそういう形をしてなくてはならないのだ.その代わり幾何学の成績は悪かった.また四葉は数字の7が兄の数字であると思っていたため,代数では7をできるだけ多く使うようにしていた.つまり,数学全般が最悪で,授業中にはよく夢を見た.

そして,出会いの日から7度目の七夕がやって来た.7度目の7月7日に7の時差を越えて兄と再会すること,四葉はこれを約束が本当のことになる最後の機会だと考えていた.四葉は短冊を7枚書いた.それは全て鳥の形をしていた.短冊を結んだ庭の木の下で,四葉は日が暮れるのを待った.午後5時を過ぎれば日本は7月8日になる.そのとききっと何かが変わるのではないかと思っていた.

午後5時を迎えようとしたとき,玄関のベルがなった.四葉は駆け出した.玄関先には四葉と同じ年頃の少年の笑顔.四葉と少年は抱きしめ合った.その時刻は正確に午後4時44分.

少年は4通のエアメールを取り出した.手紙には子供の字でオランダ語が何か書かれていた.少年はそのエアメールを見て,異国の妹とどうすればまた会えるだろうかと考えたのだった.子供の身に自由はなかった.言葉もよく判らなかった.どうしてあの日,分かり合うことが出来たのだろう.だから4通目のエアメールが届いたとき,少年はその4という数字にすがることにした.幸いその後,手紙が届くことはなかった.だからこの4という数字が自分と妹とを結び付けるのだと思った.春が訪れる毎に少年は四葉のクローバーを探した.その数はこの日までに四百四十四.だから今宵,44の短冊を鵲の形に切り,笹の葉に飾って眠りについた.

二人は再会を祝い,あの夜のように語り明かした.夢は言葉を越えるのだろう.世界の東に日が昇り,少年の目が覚めるまで.世界の西に夜が更けて,少女へ眠りを届けるまで.伝説が語り継がれるのだとすれば,たとえそのわずかな間だとしても,洋の東西を問わず牽牛織女は出会えなくてはならない.

2004年7月9日
レミコンは僕も24日に大阪公演へ行きます.例によって姉と.
基本的にレ・ミゼラブルの舞台の方から歌だけを取り出したものですので,初めての人は?なところがあるかもしれません.少なくとも舞台版のほうは僕もお薦めします.


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