緑の庭と三つの歌





僕は、またその庭の中にいました。

そこは緑がいっぱいの暖かい場所で、

柔らかい土の上には

いつも木漏れ日が踊っていました。



庭はどこまでも続いていて、

僕はその果てを知りません。

沢山の人がそれぞれ自分の場所をもっていて

自分の好きなものを集めていました。

ミニチュア好きの人の場所は、

さながら小人の国のようで

それは小高い丘にある、のどかな村に見えました。

この場所に一歩でも足を踏み入れれば

僕はミニチュアの人間となってしまいます。

今は先を急いでいるので

荷車を引く小さな農夫を横目に

次の場所へと行きました。



この庭の緑はみんな庭の持ち主である

Sというおじさんが植えたものです。

おじさんはいつも自分の好きな植木に

囲まれて暮らしています。

庭に来るまでの冷たい道の途中にある

何度か訪れたことのある街で、

種を仕入れに行っていたおじさんと偶然出会った時に、

僕はひまわりの種をもらっていました。

他の人に比べて自分の場所が殺風景だと思った僕は

おじさんに何か緑を分けてもらおうと考えていたのです。



庭は暖かかったけれど、季節は冬でした。



「これはいつ植えたら、夏に花を咲かすでしょう、」


そう僕が聞くと、おじさんは答えました。


「これは、いつ植えたって、どれだけ適当に蒔いたって、

 芽が出て花をつけるんだ。

 ずっと深く埋めても、

 ただぱっと土をかけるだけでも、

 必ず芽が出て強く育つ。

 ただし、種はできない品種だよ。」


「そういえば、僕の知ってるひまわりの種は、

 黒と白の縞々だ。」


それは、ただ真っ黒な種でした。


「もしかしたら、他の種が混じっていて、

少しくらいは種ができるかもしれない。」


おじさんは、そう付け足しました。



庭の片隅にある僕の場所に種を蒔いて、

僕はさっきからかすかに聞こえてくる音楽のことを

考えていました。

この庭には音楽の好きな三人の少女がいて、

それぞれ楽しそうに自分の好きな曲を奏でているのでした。

彼女たちから届いた曲紹介の手紙は

少女らしい情熱にあふれていて、

僕もいつか自分のひまわりのことを

そんなふうに書きたいと思いながら

彼女らへの返事を考えていました。



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