Planet-Aに会いにゆく




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 星の世界には、魔法の色がありました。

 昔は誰だってその色のことを知っていました。なぜかといいますと、それは星の世界に浮かぶお月さまの色だったからです。けれども、わたしたちの知っているお月さまのような色を想像してはいけません。それに、よく見るとそれはお月さまではなく、まるい小さな窓でした。

 魔法の色は窓からの景色いちめんに広がっていました。そして見る者すべてを、何億年もの昔から続くようなやさしい気持ちでいっぱいにするのでした。きっと、空想の絵の具で塗られたのでしょう。それは、まだ目には見えない未来の色でした。そうでなければ、窓の向こうに住んでらっしゃる神さまの色だったでしょう。どちらにしても、星の世界に住む者はみな、それぞれの目的を持って窓を目指していました。ある者は夢を叶えるため、窓へ続く道を真っ直ぐに歩みました。またある者は罪を悔い改めるため、窓を巡礼の終着と決めました。

 それなのに、ちょっと手を伸ばせば届きそうに見えたその窓辺にさえ、誰ひとりとしてたどり着くことはできませんでした。窓はまるで蜃気楼のようで、いつも近づけば近づいただけ遠くへ離れてしまうのです。

 そのうちに、魔法の色のことをあきらめてしまう者が現れはじめました。それは、ずっとこの色のことばかり関わっていては仕事もできやしないし、なによりもっと簡単に手に入る良いことがたくさんあるように思えたからでした。そうして誰かがあきらめるたびに、窓の色は遠く、薄くなって見えました。それでもまだ、窓を目指す者はいました。けれども、まわりの者のほとんどが、もう魔法の色のことなどつまらないと話すようになると、なんだか自分だけまだ探していると言うのが恥ずかしくなって、もうそれを口にするのはやめてしまいました。

 すると、窓の色はいっそう薄らいで見えました。

 そしていつしか、このまるい窓を見る者は誰もいなくなりました。魔法の色の記憶はもう、言い伝えの彼方へと追いやられ、ついには窓さえも人々の目の前から消えてなくなってしまいました。




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夏町 銅貨 <soga@summer.nifty.jp>