R.S.T. (5)  すのこの夏胞子〜水いろ水鉄砲

一説によると,すのこは無性生殖であるのだそうです.
秋口には銭湯のまわりですのこの幼生をたくさん見ることができますが,
それらは確かに群れをなさず,
残暑のうちにどこか暖かい国を目指して散り散りになってゆきます.

時々,3ミリほどのすき間しかもたない小さなすのこを捕らえることがありますが,
それはまだ使用に耐えない可愛らしいものですから,そっと放してあげてください.
間違っても無理矢理に角やら棒やらを突っ込んではいけません.
割れたすのこは,二度と元へは戻りません.

わたしたちは欲望のままにすのこを蹂躙することなく,夢を見続けなくてはなりません.
散り散りになったかのものたちがいつか集い,
南国の,日に灼けた白い土いちめんに敷き詰められた
夏たちの最後に辿り着く街があるからこそ,
わたしたちは有性のしがらみに終わりを信じて生きてゆくことが出来るのだと思います.

(すのこの夏胞子 2002/9/2)


人生,水もの,水鉄砲.数撃ちゃ必ずどこかに当たる.

ソーダ水を吸った銃身,後ろから狙うと彼のTシャツが青に染まった.

  背中がべとべとになったじゃないか.
   これはとんだご迷惑.ぜひともお水を奢らせてください.
  勘弁してくれ.君はなんの恨みがあって僕を撃つんだ.
   あなたと一緒に泳ぎたかったんです.ほら早くシャツを脱いで.

不意を討って唇をふさぐと,ふたりの舌は同じかき氷の色に染まっていた.

もう炭酸の抜けた甘い水が,下げた銃からどろりと流れ落ちる.

  こんなに濃い水の中で泳ぐのかい.
   カルキはたいした消毒です.夏にあった出来事は,みんなこうして忘れなくてはなりません.
  撃たれたところがひどく侵みるよ.
   身体だけが,それを覚えているんです.

プールの底には青色が溶けていて,銃口から吸い上げると,炭酸が生まれる.

洗いざらしたシャツが乾く頃,わたしは彼に新しいソーダ銃を渡した.

恋は水いろ,水鉄砲.当たればいつも,濡らす袖.

そのころわたしはようやく全てを忘れ,銃創にカルキ水が侵みてきた.

(水いろ水鉄砲 2002/8/30)



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