ひゃくおくまんえんの指輪 2003年9月(2)


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 僕の挙動をはたからみていて微笑ましかったらしいのは,みずいろOVAの予約特典だった設定資料集がショーケースにあったから.倉嶋丈康氏の線画を眺めていると頬が緩みます.幸せ.

(2003/9/24)

 SNOW.

SNOWという物語の性格として,AIR・kanonの再話ではなく,その文脈を丁寧に追いかけた上で微小な操作によってダイナミックな変化(AIR・Kanonとは対照的な志向性)をもたらそうとする点がある.SNOWは複数ライタの手で書かれており文章力にばらつきがあるが,その点においては全体イメージの統一や文脈の制御が効いている.・・・という話を引用までしてじっくりする時間が無いので鬱屈した心情の昨今.言いたいことはお話としては昔書いた日記中にあるのだけど.

話はいったん脇道に逸れるが,次世代について思うこと.人が子を産んだところで子は必ずしも親よりえらく育たない.人が子を産むことで時代は進むが人間は一歩も進まない.ただ親と子が相も変らぬただの人間同士として新しい時代を生きるだけだ.人が子を持つことなんて時代を進める程度の意味しかない.あとはそこに放り込まれた親と子であるところの個々の人間がどうするかであって.

さて,SNOWの話に戻るがAIR・kanonとSNOWとの間にある参照もその程度の意味しか持たないように感じられる.より良くなった,悪くなったという軸ではなく対等に照らし合わせて見るべきである.SNOWによって新しい世代が生まれたとは思うが,SNOWの場合その参照を理由にしてAIR・kanonを良くしたものであるとしたり逆に悪くしたものだとする比べ方はどうにもする気が起こらない.(僕以外の誰かがそういうことをした具体例は思い当たらないのだけど.)

良くあらねばならないことが単に時間の経過を背景に語られると胡散臭い.だけど,僕も対面した相手への効果を信じたとき口にしてしまう.せめて書き言葉では抑えてゆきたい.

(2003/9/24)

 ドラマCD SNOW 澄乃編(2) (以下ではゲーム版澄乃編,過去編の内容をばらしています)

いまどき17,8の娘が「およめさん」という言葉を繰り返したりおもちゃの指輪で喜んだりするのは素朴すぎる,母親の小夜里さんとしてはそう思いつつも,それでも彼方さんと共にあるときの娘の喜びようを見ていると嬉しくて仕方が無い.芽依子はというと例の冗談を交えながら二人を祝う.いわく,澄乃からの電話で彼方さんがいかに格好良いか三時間も聞かされて大変だったと.つぐみさんにも筒抜けになっていて二人のことをうらやましがる.小夜里さんは親として娘に料理やお茶の出し方など生活に必要なことを仕込んではいるが,それ以上のことについて澄乃が澄乃であり澄乃でいてもいいことはかように周りの人々に認められている.

彼らはその人がその人であることに対して節度を守ろうとする.それを可能とするために,一人の人間の中にその人がこうであると自分が信じる部分と,その人がその人のままである部分とをバランス良く見出している.女手ひとつで澄乃を育てた小夜里さんには澄乃を自分が形作ってきたという自負があり,それは後半,澄乃が痴呆となったときに澄乃が失われてしまったと彼女が思う様子に見て取ることができる.澄乃から失われた記憶とはまずは知識ではなく生活能力であり,小夜里さんがかくあるべきと思う澄乃とは彼女の仕込んできた暮らしの術を知る澄乃であったことが判る.しかしこの事態に対して彼女が悲しみに打ちひしがれながらも誰が悪いわけでもないとするのは,彼女には信念があるがまたその信念の届かない場所も有るということを彼女が知っているためであろう.ただし,届こうが届くまいが他人様に対する道義的なあやまちがあったときだけは小夜里さんはその人がその人のままであることに物申す.それは,澄乃が彼方さんの記憶を失い彼の健気さを裏切ってしまった時に小夜里さんが正面から声を荒げたことから判る.

また芽依子にとって彼方さんは兄の生まれ変わりであると感じずにいられないが,それが彼方さんにとっては関係ないということも判っている.だからこそ彼女は彼女にとっての真実を彼方さんにとっての冗談として交えながら話すことによって,兄を偲びまた彼方さんを尊重するようなやり方で生きてゆく.

節度という点では旭編における彼方さんについてどうしてもあんぽんたんな箇所が一つだけあるが,それは昔書いたのでもう一度は書きたくない.あれはあんまりだ.あと私の周りではつぐみさんの旅館放棄がすこぶる不評であるが,あの人にはそれまでに大変なもてなしを受けたので怒る気がしない.お葬式を出してくれた.料理が旨かった.そもそもつぐみさんの親友である小夜里さんによるフォローがあるため少なくとも私がとやかく言う話ではない.もちろん小夜里さんもただ義理だけで旅館経営を助けに来てくれたわけではなく娘の将来を思う下心満載だろうからそれだけ理由があれば納得できる.改めてつぐみさんや小夜里さんの声を聞いているとなおさらそう思う.声は手厚い待遇と喜びに満ちている.また,拒絶と悲しみをぶつけてくる.この点において特に川澄綾子も保志総一朗もすこぶる上手であるので参った.澄乃編をご存知の方には後半のドラマを思い出して頂きたい.またぼろぼろと泣いた.



ところでSNOWは音声のついたDC版が9/25に発売されるが,ゲームテキストの読み上げを聞くのと声のために書き直したドラマCDを聞くのとでは違う.音声会話とは普通,発話と発話の間に制御の効いたものであるが,ボタンを押して読み進めるためのテキストに音声を後付けされると,私がどういうタイミングでボタンを押せば彼らが彼ららしく彼らの思うように話すことができるのかよく判らない.結果としてそれは会話でなく分断された声であり前後の繋がりを持たないものとなってしまう.発話を文脈抜きに,また声を音として楽しむこともできるが,SNOWのように分裂したところの少ない物語において音声追加はそぐわないだろう.

NOëL NOT DiGITAL,あるいは北へ。のC.B.S.(Communication Break System)は音声会話ストリームをなんとか制御しようという試みだった.どちらもボタンを押して相手の発話の間に割り込む仕組みであるが,NOëLは割り込むタイミングと話題とを覚えないと会話を長く続けるのが難しいし,CBSは割り込みだけを考えれば良かったが相手の微妙な間に慣れるまで時間がかかった.これらは最新式の通話メディアであり,私は慣れないものだからどこで会話に割り込めば良いのか判らないという不安があった(画面を見なくても必要な会話ボールをキャッチできるような,適応しきった人間もいた).北へ。では続編のDiamond Dustにおいて,C.B.S.の手がかりを文字色の変化で見せるように改善したらしい.北へ。はC.B.S.のために文字単位ではなく音節単位で音声とキャプションとをシンクロさせているが,そこまでしてもまだ非言語情報に乏しい彼女らの様子から割り込みのタイミングを見つけるのは今のところ困難である.だからこれは,私と彼女らとの心地よい通話を支援するための正当な進化であると言えるだろう.

(2003/9/20)

 ドラマCD SNOW 澄乃編

西木さんのメルマガにあったよう,二枚組CDに澄乃と彼方さんとの幸せが満載である.もったいないのでまだ全部は聞いてないけれど.

彼方さんの声はアダルトで澄乃を引っ張ってゆくようなしっかりしたものを想像していたが,保志総一朗はちょっと可愛らしい感じの若者のように演じる.しかし,澄乃に惚れられて照れ気味のドラマCDのシナリオには合っている.また澄乃は口調こそ心許ないがその実,年相応のしっかりした人間であるが,それは川澄綾子の話し方に反映されている.喋り方の心許ない幼友達といえばkanonの名雪やあゆを思い出さずにはいられないが,名雪はどうやら過去のトラウマに捕らわれて眠そうに話すのであるし,あゆは事故のため全体的に幼い.一方,澄乃の精神はそのような特殊な事情下にあるわけではないので國府田マリ子が名雪を演じたような人間離れした話し方にはならない.それに澄乃の言葉の拙さは彼女の半生と関わり無い意匠として与えられたものではない.つまりそれが彼女の板についたものとして受け取れることは前にも述べた通りであり,川澄綾子の自然な話し方は全く澄乃のものとして聞こえてくる.

その他,声優陣が懐かしい.つぐみさんのおばちゃんっぷりが上手であるが水谷優子といえばアップルだったなあと思うと私もアップルと一緒に年を取ったと感じられる.芽依子の渡辺菜生子といえばキャティ(アンドロイドのほう)であるがこちらはあまり変わらない役どころだ.

ところでSNOWの良さは彼らの無理のない範囲において彼らが幸せであるために筆を惜しまない点だ.過去および現在のあの村に生きた者たちがどのようにして幸せだったか,ということを伝えるために全てのお話がある.悲しいことがあって,次にそれを避ける道が示されたとしても,過去に選びとった心はその時点において無理のないものであり全否定されてしまうことはない.悲しい出来事ではあるがそれが全く不幸であったとは芽依子も思ってないだろう.SNOWとは澄乃の言葉を借りれば「こうして,みんなとずっと一緒に,面白おかしく生きていこうね.」という物語であり,この世を捨てたものじゃないとする彼らの強い意思が伝わってくる.

最後までやった感想としてはそんな感じですので.

(2003/9/17)




小さな四葉はクッキーと一緒の袋に入れられてイギリスからやってきました.

しばらく,四葉と二人きりで,
じっと静かに過ごしたい.

(2003/9/13)












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