多重人格、ドッペルゲンガー、王と道化、など、古今東西の影に関する話とそのユング的解釈。 著者の心理療法士としての長い経験を活かした具体的な説明には頷けるところがとても多い。 (これは同じ著者による他の本全てに言えるだろう。)
作家ボルヘスの撰集。実数の世界を言葉で綴ることに長けている。 ふと「ポケットを叩くたびビスケットは増える」 という歌を思い出して、その恐ろしさに震えさせられる。("青い虎") 「無限」というものには恐怖を覚えるところがあって、今になると円周率などは3.14あたりで止めておくのが賢明かと思うけれど、 若い頃は果敢にもどこまでも挑戦したくなったものである。
錬金術師老パラケルススにその秘技を見せろと迫る男の話は、 東洋的な技の極致に通づるところがある。 中島敦の名人伝とかね。("パラケルススの薔薇")
同じくボルヘスの短編集。 幾つかの奇妙な運命について語ることで、 知られざる時間の秘密を伝えている。 (奇妙な運命、因果とはすなわち奇妙な時間だ。) 感じることが全てだとは思わないが、普段、 知覚している世界の小ささを思う。 人の認識それ自体についての話が殆どで、 発想は 2.に収録された話のほうが面白い。