大正から昭和にかけて生き、そしてひっそりと消えた作家、 尾崎翠(ミドリ)の全集。
「第七官界彷徨」は、 翠の分身とも言える少女の視点で語られる、ある兄妹たちのおかしな日常。 もちろん、エッセイとは異なり、話の中心にあるパラノイア、 蘚(コケ)の恋愛との対比が面白い。
「第七...」は紐付きの浮遊感、と言うのだろうか。 そんな雰囲気を持った翠の作品群の一つである。 つまりは、少女の想像力から生まれる、胸のなかの緊張感が良い。 ゴムの張りつめたヘリウム風船が、細紐一本でつなぎ止められているような危うさで、 読者としては、果たして針で刺してやろうか、 それとも紐をちょんぎってやろうかと思案しながら、 それでも手は下さずに眺めていたくなる類のものである。