星といえば三年前、 宮沢賢治の足跡を追って東北を旅したときのことを思い出す。 二泊目は花巻の小さな民宿に宿をとったのだが、 そこの暗い戸棚のガラスの奥に古ぼけた本が飾ってあった。 それは宿の主人が趣味で集めているらしい昔の童話で東南アジアの物語だったが、 正確な場所は記されていない。 ただその街にはほとんど汽車の止まることのない駅があって、 夏には熱く湿った南風が吹くことくらいしか分からなかった。 僕がその童話に興味を持ったのは その表紙に何やら奇妙な形の洋燈(ランプ)の絵が書いてあったからだ。 話を読んでみると、どうやらこれは《星洋燈》といって人々の『願い星』であるらしい。 僕の好きそうな話だ。 この『願い星』をきっかけとして星魔法使いの少年と小さな魔女達の物語が始まるのだ。 そうそう、かわいい魔女猫も忘れちゃならない。 しかし、東南アジアに魔女とは!! 黒いローブととんがり帽子、ほうきに乗って空を飛ぶ・・・ 童話に出てくるような魔女といえば西洋のそうしたイメージしかなかった僕は (全裸に飛行薬を塗って空を飛ぶ魔女はもちろん却下する。) 「魔女」という言葉の響きと子供達の愛らしさから想像して 新しい魔女達の姿を再構成するしかなかった。 僕自身、想像力が足りないのか西洋人の登場人物にはなかなか感情移入できない。 しかし、アジア人の姿と精神はどこか自分に通じるものがあると思うのかそれも容易だ。 かくいう訳で、僕はアジアの魔女を非常に気に入ってしまった。 彼女らのことは追って語ろうと思う。 ただ、人々の「願う心」とはいったい何なのか、それを考えさせられた。 蛇足だが、一昨年の正月にその民宿から年賀状が来た。 『イーハトーヴ 花巻から あけましておめでとうございます』 ・・そこにはあの洋燈の絵が添えてあった。 |