「雨」


公園に星が落ちている、と
見知らぬおじさんが言った。

砂に埋もれた星たちを
拾っていたら、雨が降ってきた。

泥まみれの星を指でぬぐうと、
ぴかぴかの先端が刺さって
血がにじんだ。

 +

びしょぬれの私は、もう家に戻れない気がして、
そのまま歩き出した。

雨が体を冷やして、
触れると生温い金属のようだった。

アスファルトに頬をつけて眠ると、
星になる夢をみた。

 +

水は新しいいのちを与えてくれる。
星は、なにか別のものに生まれ変わるため、
雨降り注ぐこの地に落ちてくるのだ。
私がこの世界に生まれ落ちたのも、
なにか別のものに変わるためだったのだろう。

水滴が腕を滑り落ちる度、
新しい感覚が生まれる。
人はいつも何かになろうと思うけれど、
何かになってしまうことはない。
ただずっと、何かへと変わり続ける過程にある。

それは、命の短さゆえなのだろうか。
例えば、天の星ならば、その無限の寿命の間に、
何かになってしまうことがあるのだろうか。

もしそうだとしても、
それがけして幸福ではないという証明のため、
私は、地に落ちた星を探し続けている。


天球儀植物園へ

寿琅啓吾 <soga@summer.nifty.jp>