◆ フルォリット ◆
1. ある晩のこと、夜空を飾る幾千の星たちが、いっせいに姿を消してしまいま した。 人々は驚いて、なにか怖いことのあるしるしではないかと恐れもしましたが、 しばらくして、何も起こらないということが分かると、たいして問題には思わ なくなりました。方位を知るには磁石がありましたし、夜も月と街灯があれば 十分に明るいですからね。 ただ、消えた星たちがどこへ行ってしまったのかと、人々はうわさしあいま した。ある者は、星は全て海の底に落ちてしまったのだといいました。ときど き海面近くに映る淡い光の群の正体は、その星たちの影だというのです。また ある者は、星は夜行性のけものたちに飲みこまれてしまったのだといいました。 それで彼らの眼は夜にいっそう輝いているというのです。 それから10年が過ぎた今、そんなうわささえも聞かれなくなって、ほとんど の人は星のことなど忘れてしまったように思います。しかし、この前の春宵祭 の晩に、私は星たちの消息を伝えるこんな話を耳にしました。 |