◆ 星影拾遺異聞 ◆

3。




polaris


Polaris...★


落穂を拾い集める女たちの中、
彼女だけが別のものを探していた。

私はいつも、秋の終わりの近づいていることばかり気にしていたから、
この季節に踏みとどまるように何かを懸命に探していた彼女を
興味深く眺めてしまっていたのだろう。

「旅のお方、どうかなさったのですか、」

声を掛けられてはじめて、そのことに気付いた。

私は自分を受け入れてくれる国、
本当の故郷を探すための旅の途中で、
そしてそれはまだ一年と経っていないにも関わらず、
私を焦らせていた。

ポラリス、という名のその娘が探していたものは、
もちろん私などではなく、流れ星だった。
秋の夜空を流れた星の、地に落ちているのを拾っていたらしい。

「あれは遠い世界からやってくるメッセージだから。」

「遠い世界って何処のことだい、」

「ここじゃないどこかの世界。」

といって彼女は笑う。
少女らしい可愛さだと思った。



冬が訪れるのは早かった。
かつての田園風景を霜が凍らせ、
私の足をとどめるように錯覚させた。

彼女はやはり星が好きなようで、
冬の夜の澄んだ天穹を飽きることなく眺めていた。
私はいつも、その側にいた。

流れ星を拾う遊びはまだ続いているらしく、
私は、拾った星を隠しているという藁束を見せられた。
星たちは藁束の山の中で、
こぼれた麦穂と一緒に黄金色の夢を見るのだという。

星まじりのベットで私たちも眠った。
私は遠い世界の夢を見た。



「私の本当の故郷はあの夜空に輝く星の世界なの。」

一度だけ、彼女はそう漏らした。
私が彼女に故郷を見たのは、
彼女が私と同じ望郷の念を抱いていたからだろうか。



北の不動星には彼女と同じ名前がついていた。

「ステラ・ポラリス(極の星)は、多くの旅人を導く。」

「ポラリスが動かないのは、動くと迷子になってしまうから。
 こうして、ここで待っていれば、
 いつかきっと見つけてくれるから。」

私には行く手の闇を照らす灯火が必要だった。
一緒にここじゃないどこかへ行けばいい、
けれども、彼女はここじゃないどこへも行こうとしない。

「ないものは探さない。ただ焦がれ続けるだけなの。」



あるはずのない本当の故郷に、
焦がれる気持ちは変わらない。
私はそれを探しに行くけれど、
せいぜい彼女の周りをひと回りするくらいのこと。
いっぽう彼女はただ待つだけで、
故郷からのメッセージを受信することができるのだ。


私のポラリス。
この地上の者たちの付けた名前で
生きることのできるおまえを私は羨ましく思うけれど、
私はおまえの周りをまわって
眺めていることしかできないでいる。

世界の中心におまえは居るから。

だからわたしは天の反逆者とならねばならない。
夜空の世界の法則を嘲笑して駆ける、
あの流れ星に。

そして私が地に落ちて、
星の欠片となったとき、
今度はおまえが拾うのを
私が待つ番となるのだ。


ただ焦がれ続けながら。



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寿琅啓吾 <soga@summer.nifty.jp>