『星素粒子』



 ●    晩秋の詩

例えば、秋が終わって冬が来る。
●        時が、世界が流れてゆく中、
私は音も立てず、此処に停まったまま。

四季はただ永遠に繰り返すけれど、
●         春から夏、夏から秋、秋から冬、
移ろう保証があるから、それでいい。

ずっとこのままで、続いてゆくことよりは。

紅葉を見ないままに、雪が降った。
せめて、あの赤が目に焼き付いていたならば、
来るべき白の鮮烈さは、
心を揺り動かすかも知れないというのに。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・          冬の返歌  

「けして明けぬ夜はない」
貴方はそう言うけれど、
明けてもまた夜は来る。
夜はずっと同じ夜。
貴方は夜しか知らないから。

けれども、
あの闇に見たものは、幻だったでしょうか。
街灯に照らされた冬の夜の魔法。
その覆った星影のかわりに、光の粒を降らす雲。

目を逸らした大きなもののかわりに、自分の創り出したものは、
目を逸らしたものよりも綺麗でしょうか。
逆らった大きな流れのかわりに、自分の創り出した流れは、
逆らった流れに負けぬものでしょうか。

時のもたらす焦燥が、
信じることを挫けさせるなら、気付いて下さい。
回り続ける秒針は、昼も夜も等しく刻んでゆくけれど、
耳を澄ませてみて。
響く音の異なることを。

そう時は貴方の味方。
貴方は鐘を叩き、ペンキを飛ばし、
魂のノイズを歯車に乗せ、朝へと運ぶでしょう。

そして、朝は小さく悲鳴を上げるでしょう。


1997/02/04

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寿琅啓吾 <soga@summer.nifty.jp>