◆ 星影拾遺異聞 ◆

2。




星の約束


 ひとめぼれを信じますか。

 「初めて会ったその日から、
  あなたから目をそらすことが出来ませんでした。」

 異性との出会いに限りません。
 大切な出会いはいつも、
 魔法の閃光とともにあなたに訪れはしないでしょうか。
 そんなロマンティシズムともいえるような出会いの一切を、
 ちょっとした気恥ずかしさをこめて、
 「ひとめぼれ」と呼ぶことにします。

 この世の異邦人は、
 ひとめぼれへのあこがれが人一倍強い人たちです。
 それは、いつも、
 この世のどこかにいるはずの、  
 同じ異邦人、彼らにとっては同胞たちを
 求め続けているから。

 「わたしはあなたと出会うために生まれてたのです。」 

 さて、わたしが星のむすめを愛しているのは、
 そんな異邦人である彼女たちに、
 自分の姿を重ねるからでしょう。

 故郷、星々の世界を離れ、
 とおく、とおく離れたこの地上にやってきたむすめ。
 彼女たちはその生まれながらの使命から、
 どうしてもこの場所に来なければなりませんでしたし、
 寂しさをほんのすこし癒すため、
 人たちと交じりあわずにはいられませんでしたが、
 それでも、心のどこかでは遠い故郷、同胞たちを求めているのです。

 星のむすめたちは、
 いつもけなげに頑張っています。
 それは、哀れみを誘うため。
 そんなむすめの瞳を見たならば、
 わたしはもう二度と目をそらすことが出来ないでしょう。

 そして約束を思い出します。
 いつか出会っていたはずの、むすめと交わした約束を。

 はじめて会ったはずなのに、
 ずっと昔から知っていたような気がする、
 そんなことがないでしょうか?
 それはきっと、あなたがその人を好きだという、
 ひとめぼれの証拠だから。


 だから、わたしは約束を思い出すでしょう。
 いつかおまえと出会ったときに、
 交わしたはずの再会の約束。

 おまえがわたしのもとを逃げ出したのは、
 わたしが本当の同胞でなかったから。
 おまえは約束を信じなかったの。
 それとも、おまえはわたしを試しているの。

 異邦人はひとめぼれにあこがれるから、
 だからわたしは目をそらせなかったのです。
 哀れみを誘っていたのはわたしのほうだったでしょうか。

 約束を信じなかったのはわたし?
 
 互いの寂しさはすれ違って、
 おまえは逃げる、
 わたしは追いかける。
 ときどき振り返りながら逃げる。
 ときどき引き返しかけながら、また追いかける。

 魔法の閃光は強すぎて、
 ほんとに小さなわたしたちには、
 信じられなくなることがあります。
 異邦人だかどうだかなんて、
 どうだっていいことなのにね。
  
 いつか、
 おまえが連れてきたどこか異邦の地で、
 わたしが追い立てたどこか異邦の地で、
 ようやくそのことに気付くのです。
 その光を信じていいことに。

 ひとめぼれの約束を、
 信じていいということに。
    
 そして、
 おまえと交わしたそんな星の約束を忘れぬため、
 わたしはいつも夜空を眺めているのです。
 

 ひとめぼれを信じますか? 


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寿琅啓吾 <soga@summer.nifty.jp>