★ 夜光性歌劇 ★ 2



2.

街の猫たちの間では、不気味な集会のうわさが流れていました。その集会は、街外れの掘っ立て小屋で毎晩きっちりと午前零時に開かれて、小屋の中からは、低くもの悲しい鐘の音や、女のすすり泣く声が聞こえてくるのだといいます。そして、小屋の中には、淡い光をまとった不思議な少女がいるとも言われていました。こんな不気味な様子の小屋には、どの猫もあえて近づこうとはしませんでしたが、キノはその不思議な少女のうわさ話がまるで星のむすめのことのようなので、自分の目で見て確かめようと思ったのでした。

窓から家を抜け出したキノとフォルテは、午前零時の集会を目指して歩き始めました。道案内のフォルテが、くるりと振り返って言います。

「前もって言っておくがね、何か怖いことがあっても俺は助けてやらないぜ。」
「今夜はね、なんだか闇さえ見通すようで、何も怖くはないんだ。一体どうしてだろう、」
「さぁな。いつも星ばかり見てるから、目がやくざになっちまったんだろうよ。」

この夜のキノでなくとも、街の闇は昔ほど人間を恐れさせるものではなくなっていました。大通りはいつも街燈に照らされていましたし、夜も早い時間なら軒先にランプを掛ける家もありました。かつては夜に生きるいのちが闊歩した闇の街も、いまや人間のものとなったのです。日が落ちても、街路からはしばらく人通りが絶えません。その一方で、夜のいのちたちは、街燈の光を避けた路地の暗がりで、古の踊りをひっそりと星に奉納しているのでした。

キノの影は、周りの街燈の数だけ足元から突き出ています。靴を縁取っている最も黒い影は月の影で、その他の影たちは薄く、キノが走ると狂った時計の針のようにくるくる回りました。街燈は夜の町並みの彫りの深いところを一層暗く浮かび上がらせて、まるで昼の街をジオラマにしたように見えます。キノはジグザグに走ったり、踊ってみたりして、ジオラマの街に影を遊ばせました。一方のフォルテの姿は街路に見あたりませんでしたが、この黒猫がキノにつかず離れずいるということは、金色に光る眼が建物の影の中をすばしっこく走っては急に立ち止まったりしていることで分かりました。

「ねぇ、フォルテも遊びながら行こう、」
「やだね。俺は街燈の明かりが気にくわないんだ。それより、急ぐんじゃなかったのか、」

猫は夜のいのちの血を色濃く残しています。それも黒猫ならば、なおさらのことでした。

「午前零時までにはまだまだ時間があるよ。」

そういうと同時に、キノの薄茶色の髪がぴょんと跳ね上がりました。街燈の光を反射して闇に浮かびあがったその金の糸は、キノを人間でも夜のいのちでもない、新しい生き物であるかのように思わせました。


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寿琅啓吾 <soga@summer.nifty.jp>