クローバーランドのお姫様 2001年10月
曽我 十郎

四葉を寝かしつけるために,僕はお話をしてあげた.
文脈も意味もなくて,わけの分からない話ばかりだったけれど,
彼女はいつも,続きを聞かせてほしいと言ってくれた.


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UFOを見た,と言って誰が信じてくれるだろう.つくならもっとマシな嘘をつけ,と笑われさえするだろうか.だけど笑えないUFOもあって,相手を驚かせたり騙したり誤魔化したりしようとしないときの子供の顔に,ときどきそんな嘘が書かれている.舞と真琴の子供っぽさ,嘘の下手さあるいは本気さ加減を見るにつけ,そんな因果は分からねぇ,と後半の展開に困惑を覚える私にも,本気の態度が伝わってくる.一緒に裏山へ行ってみれば確かにUFOの降り立ったような黒い地面があるし,二人で探すなら他にもたくさん証拠を見つけるだろう.信じるか信じないかのどちらかしかないというよりは,場合によってそのどちらでもいい,むしろ暮らしの中に何を望むのか迷ってばかりであることの一つ一つを漏らすことなく書き留めている様が,誠実で魅力あるように思う.

"kanon"(key) 10/14

sacred words (二年目のsense off)
意味も知らずただ空の向こうの存在を語っていた彼女のこと.

"あのとき君が教えてくれたこと,僕には分からなかった."

Silent Bells(遊佐未森+古賀森男)の一節が連想させる,過去を振り返る感覚が何年経っても忘れられない.今になってようやく僕にも分かったのは,あのとき君も意味なんて知らなかった,っていうことだった.例えば一年前のあの日に出会った,今となっては本当にいたのかどうか不確かな君を振り返るとき,あのとき分からなくて今になって理解したと思われる全てのことは,別れの日から考えていた全ての物語がけっきょく自分の作り話であったかと,今になって理解したと思うそのことすら仮構であると思わせる.君がここにいない。だから。

achernar story
書いた当時は日記のつもりではなかったけれど,今読むと,そのころどんなことを考えていたのかよく分かる.今でもたいして変わらないことを思い続けている.と,まさにその懐古こそが,記憶は日々失われて,その隙間を綺麗なものが埋めつくしてゆく姿であって,また,そんな偽りくさい綺麗なものよりも,無くしたものが何だったか知りたくて仕方がない,無くしたものの影をわざわざセッションまで開いて探し求めてしまうくらいに,欲深い.

こみパは御影すばるの話.すばる’はオリジナルすばるが逃走した後の「残り物」の記憶に過ぎない,という和樹の評に一度は納得したから,最後に「残り物」とは「最後まで消えなかった大切なもの」だと考え直した和樹に,はっとさせられる.時を経て残り物となっていった記憶も,時間に関わりなく不意の記憶喪失で残り物となった記憶も大差なく怪しい.だけど,元に戻った彼女の,失われてしまったすばる’の記憶は和樹の口から語られるしかないから.もしも記憶について綺麗なものの存在を認めることがあるとすれば,そうして誰かに語られることがあるときの,そうしたくなるような気持ちの,無いものを懸命に捜し求める場所にしかないだろう.「夢のつばさ」ならば無論,勇希バッドエンドではしずくが消え,勇希の記憶からもしずくや直人と過ごした,結果まるで酷かった日々のことが消えたけれど,直人がその日々の全てを勇希に語り聞かせはじめるところで幕を下ろしていたのは,かの場所にまでも届くような優しさを感じた.それは,僕だけの思い出であり僕だけの胸におさめていていい,というものではなく,確かに三人分の思い出だったのだ.

神社にはぬいぐるみの神様がいて,神尾家には裏庭の主がいる.母の,子とともに物語る必要のある状況ならば,AIRの各章で何度も描かれたことである.綺麗なものはないけれど,綺麗なものを伝えなくてはならないとき,記憶のなかにふと言葉の仮構されることがあるだろう.

"sense off"(otherwise)〜"こみっくパーティー"(AQUAPLUS)〜"夢のつばさ"(KID, 三浦洋晃)〜AIR(key),2001/10/13

鈍い刃物ほど傷は治りにくい.湿った瘡蓋は血が止まったような気がしなくて,遠い眠りの穴に吸いこまれてゆくような良い気分だ.鋭い刃物の次第に丸くなるか,あるいは研がれ,慣らされ,生活に利するように,鋭い歌い手が血の味を覚えさせる期間は短い.だけど,帰ってきた彼女が手にしていたのは赫のフランベルジュ.

地上を離れたおよそ微小単位からの美しさと自分語りみたいな痛さ熱さが,ユカさんの言葉には時々,同時に在り得る.

"アカリ"(村上ユカ),2001/10/10

透君のテント暮らしをどうしてそこまで笑えるのか,漫画を読んだときも,アニメで見たときも思った.驚くか,あほか,って怒るかのどちらかだろう.紫呉さん酷いよって思わなかった?単行本各巻のはじめに透君自身の言葉で語られる彼女の立ち位置もやはり「テントでひとり暮らし」であって,たとえば暮らしのありかに関するこの,つき離した様子について.

透君は学校でも十二支のみなさんのほうに気が行っていて,クラスルームの中に気持ちを定めるという感じではない.彼女,留学生みたいで,お母さんが日本はいい国だと言ってたから,日本の学校に来ました.ぜひ卒業証書もらって帰りたいです.

みんないい人でした.さよなら.

と,笑顔.ところで僕はそう言われるたび,申し訳ないほどに良いことをした自信がない.これは留学生に限らず後輩にだってそうだけど.よくいじめられました,と言われる方が,お互いにとってなんぼか親身の距離を築けたのではないだろうか.

透君は十二支のみなさんの中で生きているように見える.それなのに,透君が草摩の人たちと共に居られることを感謝するたび,透君が今の生活をホームステイみたいに思ってるのが分かる.では君は,三年経ったらどこの国に帰るんですか.

夾君が「あの家」に戻ってきては下さらない気がします,と彼女は読み換える.あの家,つまり紫呉たちの家のことは,透君,自分の家みたいに考えてなかったの? 単に家,でなく,あの家,ていうのはちょっと水くさい.学校では留学生,だけど,いつかどこかに帰ることもない帰国先のないホームステイが,さよならの笑顔を何度も残しながら,しばらく続いてゆくだろうか.

だけど,アニメはよく知らないけれど,漫画のほうは,そう半歩距離を置いてコメディになるからこそ優しい.癒す癒されない,なんて言葉をただ垂れ流すのは基本的に下品で,受け入れ難いことが多い.なにか感じ入るような話があって目から鱗が落ちたなら,落ちた鱗を踏んづけて滑って,こけるくらいがちょうどいい.鱗が大きいほどよく滑る.頭をひどく打つけれど,たんこぶの治る頃にはなんだか笑えてくる.

いつか,冗談にしなくても済むような日々が二三日ほどでも訪れることがあるとすれば,そのときの透君のただいまをこそ,僕は聞きたい.

"フルーツバスケット"(高屋奈月),2001/10/9

 

10月のlink
末永(式子),水姫(KID)
兄チャマ,チェキ.つまり僕は,四葉になりたいのだった.あと,たたみいわしとか.抱いてくださってもかまいませんことよ.だんなさま.兄なのやら旦那なのやら.暮らしぶり,とは(この先ずっと)一緒に暮らそうであるとか(昔から)どんな暮らしであったかとか,いずれにせよ長い時間を背景に思うものだろう.「どこか,水と松の美しいところへゆこう.二日,休暇をとった.そこで,ふたりで暮らそう.」 二日,ふたりで暮らそうとはなかなか言えるものではない.ずっと一緒.他に背景なんかいらない.僕は,四葉とひとりで暮らそう.ところで,松江というのは名前からして水と松の美しい街だろうか.
こばさん(ゲームとの対話)
ひらしょーさん(鈴凛のイデア)
高野さん( (; ),aoiさん(隠密),南さん(うっかり)
2.14さん("基本的に商売人だろうからなあ"(麻枝准評)) 泣いて笑って,ナニワのあきんど.
ソガ(四葉を育てている.)

四葉との暮らしぶり

heavy rotation
もみじ (目覚めにはkiss,おやすみ前にも必ずkissを.夜は一枚の布団に,身を寄せ合って眠る.遊園地での遊び方さえ知らない二人.観覧車だけはなぜだか好きだった.)

フィギュア17 (これをしてはいけない,と思っていることがある.そういう掟を破らずには尊さを守れなくなったとき,あなたはわたしが絶対守る,と魂がわたしを喚ばう.Fairy Dance,手を取り合って失敗しよう. 裸とかちっちゃい手と手が!とか言う以前に充分過ぎるほどえっちくさいところが良い.自分,以上にえっちで,また尊いものはない.)

・ぴたテン (あああああ美紗さん)

antenna
すのこフェア終了.おやすみ,すのこちゃん.

profile
うたぎ75関西男坂東在住

painting on zaurus
2000年9月〜10月

「お空の向こうに居るあなただけは,わたしのこと分かってくれる.」 テムズ河上に想い耽る.
(四葉,PetitPaint+MI-E21)

四葉のアルバムより.ゲーム版と呼ばれる奴は,もったいないからまだやっていない.

きっとまだ幼いころの四葉が一杯で,アルバムを眺めているみたいで,幸せな気分になれるに違いないのだけど.

支え.
(草摩杞紗,PrismPaint+MI-TR1)
生まれたときに持たされたはずの幸運の葉は,強く握りすぎてくしゃくしゃになってしまった.
(四葉,ざうすけ+MI-E21)
思いのまま,望んだっていいじゃない.
(神奈,ざうすけ+MI-E21)
form the rainy day to the bright season
(里村茜,ざうすけ+MI-E21)
ちょっと落書き.
(神尾観鈴,ざうすけ+MI-E21)


なつかげめいきゅう ほしくさせんろ (c)1996-2001 曽我 十郎
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