Planet-Aに会いにゆく




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 そして突然、少年がスノゥに告げました。

「さあ、君はもう出発しなくちゃならないよ。」

「どうして。あたし、あなたと一緒に行きたい。あたし、青の世界へ行く前に、まだあなたに教えてもらわなくちゃいけないことがあると思うの。」

 けれども、少年はゆっくりと首を横に振りました。

「僕はまだ、Planet-Aの人たちが見る夢の中の舟なんだ。だから、これより先に進むことはできないんだよ。でもね、人はいつかほんとうの僕をこの星の世界へ送り出すから、その時にはまた、Planet-Aと同じ名前を持つ僕に会いに来てほしいんだ。」

 スノゥの目の前に、とてもなつかしい、けれどもまだ見たことのない宇宙の光景が広がりました。Planet-Aというのは、言葉のはじまりのAだったでしょうか、それともアクアのAだったでしょうか。青い窓のかわりに、青い惑星が見えました。その青い星を背景に、白い尾を引く彗星となって銀の衛星と出逢うのはいったい誰だったでしょうか。惑星からは続いてPlanet-Bが火の星を目指して旅立ちました。いつか、この宇宙は青の星に住む人々の言葉でいっぱいになるのだと、スノゥは思いました。

 ふっ、とその光景がかき消えると、少年が小舟と一緒に遠くへゆくのが見えました。いいえ、遠く離れてゆくのはスノゥの方です。後ろからなにか強い力に引っ張られて、スノゥの体は少年からどんどん遠ざかっているのでした。

「君はもう、僕でなくてもこの世界の全ての人からいろんなことを教えてもらうことができる。」

 少年の声がかすかに聞こえました。

「そうだとしても、それはみんなあなたのおかげなのに、あたし、まだあなたにお礼も言ってない。うん、あたし、いっぱい人に話をするわ。それで、必ず会いにゆく。ねぇ、Planet-A。必ず、またあなたに会いにゆくから。」

 けんめいの叫びは少年に届いたでしょうか。それを確かめることのできないまま、スノゥは意識を取り戻したのでした。大丈夫かい、と声をかける夏の星たちの心配そうな顔が、いくつも少女を取り囲んでいました。スノゥは、星の河に流されたときに気を失ってしまいましたが、どうやらそれが今、ようやく目を覚ましたのだと、星たちが教えてくれました。そのとき、スノゥの右手はしっかりと白いヴェールを握りしめていました。そして、もう一方の手の中には、老人星の銀色のピンがありました。




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夏町 銅貨 <soga@summer.nifty.jp>