◆翡翠 カワセミ
冷たい水の中
陸から来た魚が一羽、
鳥となって空へはばたいた
雁は、新しい道連れを見つけた
翡翠は、その頼りがいのある羽音に惹き付けられた
ねぇ、君の目指す街は何処だい。
雁が優しく言った
この羽 ミドリ の灯の点る処、窓から漏れる姉さんの光が。
翡翠のほうは、眼下の川を辿るように飛んだ
雁のほうは、翡翠に合わせるように低く飛んだ
これは黒の恩寵受けし身体を幽冥へと送り届けた水
お姉さんは君の来るのを心待ちにしているだろうね。
有り難う、君もきっとお母さんが待っているよ。
水面に映る緑の影は、水の流れに逆らうように
慌ただしく、短く、尾を引いていた
その周りには、黒茶の影が
静かに、大きく、揺らめいていた
道程は帰り道の懐かしさと
夜の道の寂しさを合わせ持っている
灯が見えたよ、そろそろお別れだね。
ああ、またいつか、どこかで会えると良いね。
一羽に戻った雁は、暗い水路を進み続けた
終着駅の灯火は、いつ見えるのだろうか
そんなことを、また考えながら
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寿琅啓吾 <soga@summer.nifty.jp>