霊界譚 | _ |
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帰翠祭の夜が更けてゆきます。村の若い男女は、古き森の木の陰で互いの秘密を語り合っていることでしょう。広場に残っていた者は十数人で、それはすなわち彼らが旅芸人だということです。中央の炎、祖霊を送る灯火の勢いはもはや弱々しく、それが消えるときには、広場にさえ彼らの休む処はありません。そうしたら、彼らは村の外へ出てゆかねばならなかったのです。 「・・・この残り火は儂たちに与えられ、儂たちにしか使えぬ火。待つ者のない、故郷のない者たちのための迎え火であり、送り火でもあるのだよ。さぁ、もてなしをするよ。時間がないけれど、丁重に迎えて、また送ってやるのだよ。」老婆は子供たちに語って聞かせると、また伝統通りの儀を続けました。 いちばん年の少ない幼子は、なんだか胸が詰まって眼のあたりがツンとなりました。炎は消えかけていたけれど、炭火は強く顔を煽って、それを余計に辛くしました。 「雁はそれからどうなったの、」 「さぁて、分からない。迎えの灯の無い者は多いからねえ。どこかで儂たちのような者の処にたどり着いたかも知れんし、今もまだ飛び続けているのかも知れん。」 「祭」で出会った村の子供たちとのことが幼子の頭に浮かびます。「そろそろお別れだね。」「じゃあ、またね。」こんな一夜はいつも、ちょっとした彩り深い夢の一つとなって忘れてしまう、そのことに思い至って、幼子はわあわあ泣きはじめました。 「どうして泣くのだい、」 「僕もずっとずっと、飛び続けなくちゃならないんだ、」 老婆は渋く香る緑の蝋燭に優しく火を灯します。そして、それを幼子の前にかざして言いました。 「おまえは帰翠祭の晩に儂らの処にやってきた。村の外の草むらで、わあわあ、わあわあ、と泣いておった。おまえこそが、その雁なのかも知れない、そう思うよ。だから、おまえは泣くことなんか無いんだよ。」 |