◆ フルォリット ◆ 2



2.

 少年はあたりがまぶしい光に包まれていることに気づいて目が覚めました。鐘楼の首のあたりにあるその小部屋には、月の光くらいしかまともな明かりはありませんでしたが、それにしては光が強すぎます。

「ごめんなさい、人がいるとは思わなかったの。ここですこし休ませてもらえないかしら。」

 光のぬしは一人の少女でした。少女は光の帯だけを身にまとい、窓枠に腰かけていました。彼女自身もうっすらと光を放っています。こんな少女に突然話しかけられたものですから、少年はすっかり気が動転してしまいました。

「・・・えっ、あ、うん、」

 そう答えながら、くしゅん、と小さくくしゃみ。彼の住むこの部屋は少し高いところにありましたから、春先とはいえ、夜に冷たい風が吹き込みます。窓はずいぶん昔、竜巻に飛ばされてしまったそうで、今は窓枠だけしかありません。それで、風を防ぐためにいつもは大きな板を立てかけているのですが、どうやら今晩は忘れてしまったようです。少年は小さな机で図面を引いていて、そのまま今まで眠りこんでいたのでした。

「あたしはフルォリット。ホタルって呼ぶ人もいるわ。」

「ぼくは、キノ。君はどこから来たの、それに、」

 それはもう、キノにとって当然の質問でした。ホタルという少女はどうしてこんな真夜中にここへ来たのか、そして、もっと重要だったのは彼女が白くまぶしい光をまとっているということでしたが、それはなんと聞いてよいものか分からなかったので、そのまま口ごもってしまったのでした。

「ちょっと寄り道をしていたところ。ほんとは旅の途中なの。失われた絆を探す、長い長い旅の途中。」

 ホタルのいうことは半分も分かりませんでしたが、それはそういうものとしてキノは全部置いておくことにしました。そう、キノは今になってようやく、いちばん大切なことを思い出したのです。

「あっ、そんなんじゃ寒いよ。はやく中に入って。うすいけれど、ここに毛布があるから。」

「ありがとう、それじゃあ。」

 ホタルはふわりと笑うと、窓からそっと降りてキノの渡した毛布を体に巻きつけました。すると透きとおった光の帯は、ぶるっとふるえるように毛布と交差して消えてしまいます。その間にキノは小さな炉の火を強くしました。



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寿琅啓吾 <soga@summer.nifty.jp>