夏休みが待ち遠しい

古いものは遠いところになくてはならないと思う.先日発売された「白のふわふわ」には山名沢湖の商業デビュー作が収録されていたが,僕にとっては古い漫画であるのに紙面は白くきらきらで,実家に残してあるamieの切り抜きは捨てることが出来ないと思った.それは遠くて,色あせている.

例えば僕が7年前に書いた感想がどういうところに置いてあるのかというと,
ここから始まって,
⇒chronicle
⇒星影拾遺(1996-1999)
⇒短冊懸
⇒天球儀植物園
⇒夏街通信
⇒「雨の日と世界の終わり」に寄せて
と6つも辿った先にある,検索を使わないとすれば,ガイドなしには辿りつけない場所だ.Webページは色あせるべきである,なんて安易に実世界のありさまを電子世界に当てはめるつもりはないのであるが,古いものが残されるときには時間を感じさせる属性が何か与えられるべきである.今と昔とが平たくならべられてしまうと時間感覚が無茶苦茶になって落ち着かない気分になる.

古くてもう誰も手を入れないようなものが目立つところにあると,さらしものにされているようで切ない.電子のコンテンツを供養してやるいい方法はなくて,今のところ僕に出来ることは,深く,深く,埋めてやることくらいである.


白のふわふわ―9 clouds of Yamana world (Beam comix)

白のふわふわ―9 clouds of Yamana world (Beam comix)

2003年2月の感想

箱根温泉味噌一匹

某社研修所のある箱根の温泉地へ向かう途中,仙石原と呼ばれるすすき野原を通った.一面のすすき野原というものを僕はこのとき初めて見た.その割にはかつて自分の書いたお話の中に一面のすすき野原を登場させたことがあるが,恋だのへちまだのという話をするにつけても見たことのないものをまるで見てきたかのように話すのがお話という奴である.念のため.

研究会では大人たちの中であいかわらずのお味噌っぷりを発揮してへこむ.その後,メールで論文の採択通知が届き,来年の四月にまたイギリスへ行けることになって気持ちVの字回復.

落ち込んだりもしたけれど,私は元気です.

東京星物語

眠れないのであと少しだけ昔話に付き合っていただければと.

東京で暮らすことになったその日のこと,さっそく夜まで作業をしていて帰途についたのは遅くなってからだった.僕は方向音痴であるし辺りは真っ暗で道は入り組んでいたから,これはまず地図を買う必要があると思ってまだ開いていた小さな本屋さんへ入った.このへんの地図はないかと尋ねるとレジのおっちゃんは胡乱な目で僕を見て,何に使うの?と聞いてきた.どうやら怪しい販売員か泥棒かと間違えられたようだった.今日越して来たばかりだから道が判らないんですと必死に弁解すると,今度は文京区役所が配ってる便利地図のようなものと銭湯の場所とを丁寧に教えてくれた.

銭湯暮らしには慣れていて,広いし沸かさなくていいしお金がなかったら行かなければいいしで気に入ってもいた.ただ営業時間だけがきつくて0時で終わってしまうためいつも23時50分ごろに駆け込む始末であった.関西弁でそれでいつもぎりぎりの時間にやってくるので印象深かったのか,そのうち番台のおばちゃんが色々話しかけてくれるようになった.テレビの話とか大学の話とか,僕の顔色の話とかである.ところでおばちゃんにはもう一人いて,どういう関係かは判らなかったが少なくとも親類か家族であろうと思った,その若いほうのおばちゃんはいつもより早い時間に行くと会うことが出来た.そのうち不意にそちらのおばちゃんも僕に話をしてくれるようになって面喰らった.つまるところ裏で話が繋がっていて,誰か一人が友達になったら全部筒抜けで一緒くたなのであろう.最初のおばちゃんは落ち着いていて優しい感じがしたが,こちらのおばちゃんは何にでも興味を持って泣き虫で子供が好きではっちゃけた人だった.

東京へ来てから三度目の海外,イタリアへ行ったとき,ふとお土産を買って帰る相手がいないのは寂しいと思った.そのとき脳裏に浮かんだのが大家さんのおばちゃんと,この銭湯のおばちゃんたちの顔だった.大家さんのおばちゃんには地中海らしいデザインのテーブルクロスを,銭湯のおばちゃんたちには皆で食べられるようなお菓子を買って帰った.振り返ってみると子供みたいな僕がよくそんなことやったなと思うのだが,いつものおばちゃんにお土産ですと言って菓子箱を一つ渡して,それで何かスイッチが入ったみたいにそういうことが出来るようになっていた.それからもずいぶん仲良くして頂いた.

四年経って東京を離れることになって,その前にと若い方のおばちゃんに食事に誘われた.そんな風に改まって誘われてみると何だかどきどきして,そんな感じのまま待ち合わせの場所に行くと,待っていたのは何故だかもう一人のおばちゃんのほうだった.何か計画に乗せられたみたいに変に思ったけれどその疑いはすぐに晴れた.つまりお二人と食事をするということだったのである.僕のほうとしてはお二人と同時に会ったことはなかったので想像がつかなかったのであるが,お二人は姉妹で,一緒であることが当たり前という風だった.なんかどきどきしたのが馬鹿みたいで笑ってしまった.

あとこれは自分でも仰っていたことなので書いてしまうが,姉妹の順序が僕の思っていたのと逆であった.よく間違われるそうであるが,これにも驚いた.本郷通り沿いの小奇麗な中華料理店でランチをご馳走になり,少し歩いて金魚坂でお茶をした.小さい頃のお話をたくさん聞いた.お姉さんのほうはやんちゃで,いつも市場のお店の前に貼りついては店の人が切ったり練ったりするのを見ていた.昔,湯船とは別に川みたいな水路があって,ぷかぷか浮いて遊んだ.金魚が好きで,今でも脱衣場の水槽に金魚がいる.妹さんのほうは静かな子で,ほとんど外には出なかった.絵に描いたようなでこぼこ姉妹が話すのを僕はうっとりと聞いていた.

妹さんは図書館へ行くというのでそこで別れ,お姉さんと一緒に帰った.このへんに図書館ありましたっけと尋ねたら,お姉さんはよく知らないと答えた.

翌日,金魚坂で目をつけておいた金魚の小さな人形を昼食のお礼に持っていった.一つずつと思って二つ買ったのだけど,妹さんのほうには別のを渡したほうが良かったかなと少し後悔した.

京都へ来てしばらく経ってから郵便が届いた.妹さんのほうからで,手紙とハワイのお土産だというシャツが入っていた.手紙を書いたりするのはやっぱ妹さんのほうだよなと思って,少し思い出して,懐かしく思った.

僕は7月にオランダへ行って,今度はシャツのお礼にとチョコレートを持って銭湯を訪れたら驚いてくれた.「また遊びに来るって言ったじゃないですか」「そう言って本当に来る人はいないですよ」 お風呂上りに缶ビールをたくさん貰って帰った.気分が良くて道すがら開けて飲んだ.またあの本屋さんの前を通って,ちょうど欲しいコミックがあったので寄っていった.おばちゃんがレジをしてることが多くて,おっちゃんが居たのはあれ以来のことであった.酒神に感応したのかおっちゃんが僕を呼び止めてお酒の話を始めた.おっちゃんがこの界隈で一番酒が強いことと,あとおいしいお酒の飲み方を教えてくれた.

きっとおっちゃんは僕があのときの僕だなんて覚えていなかっただろう.だけど僕としては最初と最後に会ったのがこのおっちゃんだというのがおかしくて,泊まりの鳳明館でビールをもう一本空けた.なんだかそれでようやく東京にひと区切りついた気がしたのだった.

D.C. #14c 萌先輩 in 海

島度高し.普段見られない初音島のショットが見られるのは良い.初音島はハイカラ魔女の創った桜の楽園という印象があったので,クラシックな坂道の風景とか海とかが出てくると違和感があったのであるが,そろそろいい感じに交じり合ってきた.こういう場所なのである.

D.C. #14 

あまりにお熱い兄妹の様子を美春が嬉しそうに見ている話.こういうとき本人たちより周りのほうが嬉しがるもので,僕もやはりそのくちである.一方,当事者となると醒めてしまって,これは携帯電話が今ほど普及してなかった時代のこと,電話がないんで連絡先は友達の携帯電話だというのでかけたら,その電話を受けた友達が本人よりも嬉しそうに騒いでるのが聞こえた.紅潮した顔まで目に見えるようで,会うのはあんたじゃないだろうとか思った記憶がある.とはいえ,つまりこれは誰の話でも良いというわけではなく,身近な人の話でないと興味はないし幸せな気分にもならないのである.それで本人たちはともかく総量としては人の幸せが増えている気がするので,これで良しとしておきたい.

それにしても僕と彼らとの距離はここにあって,僕が美春のようにあの兄妹のことを嬉しそうな目で見ることは難しい.僕は彼女ほどあの兄妹の近くにいるわけではない.僕ができるのはせいぜいそうして面白い顔している美春のことをこちらから眺めて,その場に幸せが増しているのを感じとるくらいである.僕がフィクションへ向けて書く幸せっていう言葉はそういう風にして発せられます.

あと,芳乃さくらの泣き所はこういう目で見てくれる後輩や友達が側に居なかったことだと思う.恋愛を呼び寄せるような関係を二人だけで作るのは難しい.音夢やことりはそこんとこ恵まれてます.

D.C. #13

さくらについては#11の杉並いわく実の妹よりも妹らしく見えるとか,本話で自分が妹みたいに見えることを自覚してるところであるとか,#6や本話で萌先輩と比較してあまりに子供みたいな身体であるとか,さくらでは駄目な理由が見た目の部分で述べられているので,そこんところは好感を持ってます.今回純一君が女の子は中身とか言うわけだけど,むしろこれはその場をとりつくろうためだけのものであってほしい.仮にさくらがフラレるとして,というか聞いた話によると確定事項のようなので,その理由が中身のせいだったとしたら目も当てられないわけでして.

D.C. #12

青い話です.純一ちゃんがいい男なのは間違いないんだけど,若いんだからまだまだ出会いはありますって.