Scene4. 灯火
マスター:この主幹道路では人力車、それに混じってときどき自動車も君たちの後ろからあわただしく通り過ぎます。 エリー:「うわっ、あの黒い煙は嫌ニャア!」 マスター:クーランはそんな忙しい大通りをそれて、脇の人間用につくられた小道に入ってゆきます。(中華街の手前あたりの小道。) クーラン:「・・・さっきもいったけどさ、僕も洋燈に灯をともすことはできるんだ・・・・でもそれだけじゃ駄目で、まだ足りないものがあるってお師匠はいうんだ。なんだと思う?」 シン:「足りないものって・・・でも、わたし星魔法使いじゃないから分からない・・・。」 クーラン:「それもそうだよね・・・。」 マスター:そうしてしばらく行ったところで、 クーラン:「さあ、着いたよ。」 マスター:そこは1メートルほど床の上げられた小屋です。 クーラン:「先にあがってて。」 クアリ:「ええ・・・そしたらお先にお邪魔します・・・。」 マスター:クーランはムイを背負って後から高床にあがってきます。階段はそれほど急なんですよ。 ・・・あがると、そこは六畳ほどの広さの空間で、申し訳程度にしかない壁に沿って灯のない星洋燈が十数個並べてあります。屋根に窓が開いているので、雨が降ったら濡れそうだね。いま雨が降らないことを祈っていてください(笑) エリー:「ニャア(涙)」
シルバス:「エリー、雨が降り出したらにげるミャア(笑)」 マスター:奥には一人のお爺さんが座っています。少しやせ気味でメガネをかけているよ。 ルア:「おや、クーランの友達かね?」 クアリ:「はじめまして、あたしクアリです。」 シン:「こんにちは。わたし、リウィット・シンです。」 ルア:「わしはルアじゃ。ようこそ、小さな魔女さんたち。あと、かわいい猫さんたちもね。」 クーラン:「・・・・・・ただいま。お師匠。」
ルア:「おや、これはムイちゃんも一緒かね。 シン:「っと・・・洋燈がほしいんです。」 クアリ:「ええ。」 ルア:「(魔女達をじっと見てから)・・・いいじゃろう、そこにあるのから好きなものを選んで一人ずつこちらへ持ってきなさい。」 クアリ:「いま住んでる船は小さいし・・・ほら、この可愛いのがちょうどいいんじゃないの?」 エリー:「そうだニャア。あっちの立派なのは引っ越してからにするニャア。」 クアリ:「そうよ、すべては引っ越しするまでの辛抱なのよ、エリー・・・。」ってなにかちがう(笑) シン:「シルバスはどれが好き?」 シルバス:「とりあえず真っ赤っかのじゃなければいいミャア(笑)・・・それと、あまり高くないのがいいミャア。」 シン:なんかこの猫、主人より経済感覚がしっかりしてる〜(笑) マスター:だからあなたは助かってるんですよ。 シルバス:「まったく疲れる・・・安息の日々は来るのかミャア(涙)でもこんな主人でもいいところはあるミャア。」
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魔女たちはパートナーの猫と相談しつつ、めいめい好きな星洋燈を選びました。
ルア:「ああそうだ、クーラン。水をくんできてくれないか。」 クーラン:「はい、わかりました。」 マスター:といって、クーランは下へ降りてゆきます。 ルア:「それじゃあ、クアリさん、ここに座りなさい。」といって、彼の前の席を指さします。 クアリ:それじゃあそそくさとそこへ歩いてゆく。 ルア:「洋燈をここへ置いて・・・それじゃあ、願い事を心の中で強く思うのじゃ。」 クアリ:「願い事ですか・・・はい・・・。」 ルア:「願いの光のともるように・・・。」 マスター:とルアさんがつぶやくと、小屋を囲む木々からもれる小さな木漏れ日が集まり、洋燈にうっすらと灯がともります。灯の色はダイスで決めましょうか。(猫の毛色表で振る。) クアリ:コンコロリンの・・・・5! マスター:白い灯ですね。じゃあ次はシンの番です。 シン:「お願いします。」 ルア:「夢の光のともるように・・・。」 シン:灯の色は・・・・(コロコロ)・・1! マスター:銀色ですよ。シルバスと同じ色ですね。最後にムイがさわって選んでいます。 ムイ:「これにしようかしら・・・。」 クアリ:ムイをお爺さんのところまでつれてってあげます。 ルア:「未来の光のともるように・・。」 マスター:薄く青い光がポッとともりました。 ルア:「さて、これで終わりじゃ。好きなところに掛けておくとよい。」 シン:「・・・ねえ、おじいさん。ひとつ聞いてもいいかな?」 ルア:「なんじゃな?」 シン:「どうしてお願いってかなうの?」 ルア:「・・・時にお嬢さんはいったい何歳じゃったかな?」 シン:「わたしは13歳。」 ルア:「わしがクーランに課題を出していることはご存じかな?」 シン:「うん、知ってるけど・・・」 ルア:「いくら灯をともすことが出来ても、この星洋燈が人々にとってどういう意味を持っているのか分かるまでは、この仕事は意味のないものなんじゃ・・・クーランにつきあって、その意味を探るのも面白いかもしれんよ。その意味こそすなわちお嬢さんの質問の答えじゃよ。」 シン:「うん、そうか・・・。」なんとなくこのお爺さんすごく気に入ってしまった。 「わたしは魔女だから魔法が使えるんだけど、魔法の意味ってあまり考えたことがないんです・・・でも、星洋燈に灯をともす魔法には、その意味を考える必要があるんですか?」 ルア:「クーランは洋燈にただ灯をともすことはできる・・・しかし、それだけじゃあ駄目なんじゃ。灯をともすことはそれほど難しいことではない。ただし、願いを叶えるにはそれ以上のことが分からなくてはならなぬ。お嬢さん方も気づいてないだけで本当は分かっているはずじゃよ。」 シン:「・・・むつかしいなあ。」 シルバス:「ご主人、ご主人。これは技術の問題ではなくて術をかける人の心の問題だと思うミャア。」 シン:「そうなんだろうけど・・・う〜ん。」
ムイ:「そういえば皆さん、市場のほうには行きましたか?」 シン:「うん、いってきた帰りにここへ来たのよ。」 ムイ:「・・・・そう、あそこは活気のあるいい所。今日はどんなものが売っていたかしら?」 シン:「花があったよね。」 エリー:「そういえば蘭は綺麗だったニャア。」 ムイ:「ふうん、花・・・花といえば、こんな話を知ってるかしら? |
花は、むかし、むかし、はるか昔のこと、 野や山の精霊さんが、 自分たちを美しく飾りたてる服をつくるために、 つくりだしたんだって。 そのとき、 何千も何万ものかたちの草花をつくりだしたんだけど、 そこで精霊さんは困ってしまったの。 せっかくたくさんつくったのに、 みんな同じ色じゃつまらない。 でも、それだけの種類の花を染める、 同じ数だけの色なんて とうてい思いつかなかったのよ。 ・・・さんざん悩み続けて疲れはてた精霊さんは、 夜になって、ひと休みしようと野はらに腰を下ろした、 そのとき、ふと空を見上げてみると、 天に幾億もの星が 幾億もの色をもって輝いていることに気づいたの。 そこで、精霊さんは、一つ一つの花を、 一つ一つ別の星の色で染めることにしたのですって。 ・・・花の色は星から映されたものだっていう話。 だから花には、星と同じように 一つとしてまったく同じ色のものはないのですって。」 |
シン:「へえ・・・なんだかすごくいい話。」 クアリ:「誰から教えてもらったの?」
ムイ:「ある猫さんに聞いたのよ。わたしには確かめることは出来ないけれど、想像することは出来る。花の色のことを尋ねただけで、こんな楽しい話をしてくれた猫さんには感謝しているわ。 シン:「どんな感じの子?」 ムイ:「見た目は分からないけれど・・・物知りな子だったわ。たぶん星が好きなんでしょうね。」 エリー:「きっと素晴らしい猫だニャア。」 シン:「あ、そうだ。じゃあ、ムイ、市場に行ってみる?」 ムイ:「そう、ほんとに?」 クアリ:「ええ、行きましょうよ。」 クーラン:「ただいまぁ。おわった?・・・え、市場に行くの? 僕も外に出る用事があるから途中まで一緒に行こうよ。」 クアリ:「それでは(ルアに向かって)ありがとうございました。」 シン:「はっ・・ありがとうございました。」・・わたし礼儀知らずだからお礼を忘れるところだった(笑)こういうときはいつもクアリに引っ張られてるなあ。 シルバス:「お礼や挨拶はしっかりするミャア。」 エリー:「その点クアリはしっかりしてるニャア。」
マスター:それでは、クーランがメインストリートまでつれてってくれます。その途中、高く広く枝を伸ばした樹と、壁に挟まれた路地があるのですが、そこでクーランはこんなことをいいます。 クーラン:「あ、ひょっとしたらここ通ったら近いかもね。」 マスター:そこは、見たところ薄暗くて少しこわい気がします。 エリー:「なんか気味悪いニャア。クアリ、やめるニャア。」 クアリ:「う〜ん・・・。」 クーラン:「大丈夫、向こうに見えてるのは街の光だよ。どんなに知らないくらい道でも、向こうに光が見えてたら恐くないよ。」 シン:「そうだね、大丈夫だと思うよ。」 マスター:そこを抜けると、さっきより早くメインストリートに出ることができました。 クーラン:「それじゃ、僕ちょっと用事あるから。・・・明日は、グレイスさんの教室へ会いに行くよ。いいかな?」 クアリ:「うん。」 シン:「あんまり学校さぼっちゃダメよ!(笑)」 クーラン:「明日は日曜日だから学校はないよ〜だ(笑)」 シルバス:「猫は毎日が日曜日だミャア。」 マスター:クーランは向こうの方へいってしまいました。 エリー:「・・・ねえねえ、クアリ、クアリ。ひょっとしてクーラン、ほとんど答えには気づいてるんじゃないの?」 クアリ:「う〜ん・・・そうかも。」 エリー:「答えの近くにいるんだけど、あとちょっとのところを気づいてないって感じに見えるニャア。」 シン:「クーランは考えすぎてるんだと思うなあ。」 シルバス:「若者は悩んで大きくなるんだミャア。シンも悩むんだミャア。」 全員:(笑)
マスター:えっと、これからどうしましょう? シン:ムイを市場の花のところへつれて行きます。 ムイ:「あら、この花はなんていうのかしら?」 マスター:と黄色の蘭の花を手に取る。 シン:知ってるかな・・・《草木や花》は3つあります。 マスター:じゃあ知ってるよ。これは「パフィオペディラム・コンコラー」といいます。(写真を見せる。)「黄色いヴィーナスの木靴」とも呼ばれます。 シン:「・・・というのよ。」 ムイ:「よくご存知ねぇ。」 シン:「えへへ。ちょっと詳しいの。」・・・・あ、そうだ。ムイにあの男の子のことを話してみようか。えっと、彼女に話します。 クアリ:「えっと、確か、あの花の前で・・・なんていってたんだっけ。」 シン:「とうさま、・・かあさま・・・・あれ、あとなんだっけ?」 シルバス:「ご主人、確かルビィとか・・・。」 シン:「あ、そうだ。鉱石の名前をいってたんだ。ルビィ・碧瑠璃・シリカ・サファイア・雲母。それに、蛍・・・。」 ムイ:「雲母まではぜんぶ鉱石の名前よね・・・じゃあ、『蛍』もそうじゃないのかしら?」 エリー:「蛍石!!」 クアリ:「あ、そうか!」 エリー:「う〜ん、ご主人様、鉱石と花ってなにか関係あるのかニャア?」 マスター:そうしてると夕方になります。 エリー:スコールを避けつつ・・・。 マスター:あ、スコールは降りません。ちなみに今ごろの季節は月の半分は雨が降るんですが、その反面、残りの半分はからっと晴れます。あと、星祭の期間は雨が降らないといわれています。 クアリ:ムイを家に送って行きましょう。 マスター:そうするとですね、途中このへんであちらの方から(線路の方角)暑そうな紺色の背広をきちんと着た、すらっと背の高い洋人が6人ほどやってきます。 エリー:「暑そうだニャア。」 クアリ:「なんか場違いね・・・。」 シルバス:「ご主人、ご主人。わしの勘では彼らはあの男の子がいなくなってそれを探しに来たんじゃないかと思うミャア。」 シン:その6人になにか相違点はありますか? マスター:帽子を深くかぶっているし、夕方で薄暗いのでよく分かりません。服はみんな同じです。 シルバス:「よく分からんものにはあまり首を突っ込まない方がいいミャア。」 シン:「そうね。とりあえず、ムイをつれて帰ろう。」 マスター:それでは着きました。ムイの家はかなりの豪邸です。 ムイ:「ありがとう。」 クアリ:「ここまでで大丈夫?」 ムイ:「ええ。」
さいごに、魔女たちは明日のグレイスさんの教室にムイを誘って、朝迎えに来ることを約束して別れました。
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