★ 夜光性歌劇 ★ 4
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4. 街外れに近づくにつれ、街燈はまばらになってゆきます。全体に暗い街路は、街燈に照らされたところだけ明かり窓の開いた廊下に見えました。キノは目がチカチカする度に、胸のポケットにあるフィルムが力を与えるように思いました。おかげで、この暗さが少しも怖くはありませんでした。 キノとフォルテが大きな建物の影を通り抜けたとき、突然あたりが眩しく光り、ボシュッ、と大きな音がしました。一瞬、キノとフォルテの驚いた顔が、闇の中にくっきりと浮かび上がります。 「夜光性の子供とは、とんだ収穫だ。」 そういいながら明かりの中に現れた男は、くしゃくしゃの上着に伸ばし放題の髭で浮浪者のように見えました。けれどもよく見れば写真機を提げていましたから、男は写真屋で、さっきの光は夜間撮影のマグネシウムだったのでしょう。 「いきなり写真を撮るなんて、いい趣味じゃないね。」 驚いたせいで、キノの声は少しうわずっていたかも知れません。 「動くんじゃない、上手く映らないじゃないか。オマエ、闇を恐れぬが、光は怖いのだな。やっぱり夜光性の症状だ。もう逃がさないぞ。」 男はそういってニヤリと笑うと、また写真機を構えました。なんだかおかしな写真屋です。 「さっきから何だい、夜光性って。」 「オマエタチは、星にやられてしまったのだ。月光主義者の変種よ。人は闇夜を恐れるものだが、オマエタチ、夜光性の人間は恐れることがない。その心に持っている星がオマエタチに力を与えている。」 キノにはこの写真屋のいうことが良く分かりませんでしたが、意外なことに、フォルテがそれを説明してくれました。 「夜が更けはじめたら、俺たちはふっと空を見上げて、静かに歌を歌うんだ。すると、星は遥か彼方から、ほんの少しのきらめきを残して、俺たちの心に転がりおちる。」フォルテが写真屋からキノへ視線を移した時、キノはフォルテの瞳の奥で、ころん、と星の光の転がる音が聞こえたような気がしました。 「そうだ、黒猫。それは夜「行」性の生き物の理。しかし、近頃、星を受けて夜を彷徨する人間どもがいる。そいつが夜「光」性の人間だ。猫はまだしも、人間が星を持つことなど畏れおおいぞ。俺はオマエタチの心にある星を写真で捕らえてやるつもりなのだ。」 キノは、そう言って迫ってくる写真屋の手の先からひょいと横に飛んで逃げました。
「僕には心当たりがないよ。だいたい、貴方こそ夜光性じゃないのか。」 写真屋は、なおもキノに近づいてきます。 「切って離せるような影はほんとうの影じゃないさ。例えば、あんたのはどうかな、」 キノは写真屋に体当たりをして、写真機を奪い取りました。そしてすかさず、写真屋に向かってシャッターを切りました。するとどうでしょう、パシャッ、とシャッターの下りた瞬間、写真屋は黒いけもののような姿へと変わってしまいました。そして、ころん、ころん、ころん、とキノの中で何かが転がるような音がすると、それを聞くやいなや、その写真屋だった黒いけものは街の暗闇の中へ逃げ去ってしまいました。 「俺たち猫は、夜のいのちの反逆者。いつも奴らに付け狙われている。地の星の転がる音は、彼らを退散させる呪文なんだ。」 再びフォルテがいいました。キノはやっぱり写真屋のいうような夜光性なのでしょうか。フォルテはなぜだか上機嫌で、得意の歌を唄いながらキノの前を歩きました。
『宵の星がころがるよ、 |